Phantom (ファントム) ~二人の陽人〜
「ハル?ハル!おいっ!やだよ!ハル!目、開けろって!」
アキが、ハルの肩をいくら揺さぶっても、頬を叩いても、その長い睫毛は閉じられたまま、二度と動くことはなかった。
その時、月が動いた。
いや、風に葉が揺れ、その隙間から灯りが漏れたのだろう…。
ハルの白いシャツの胸は、真紅に染まり、とても痛々しい。
けれど、月灯りに照らされたハルの姿は、まるで赤い薔薇の花束を抱えて眠っているように見えた。
さっきまであんなに苦し気にしていたのに、今はとても穏やかな顔だ…。
やっと痛みから開放されたんだな…
「お前、こんなに綺麗な顔…してたんだな‥」
アキは、ハルの髪、瞼、頬、唇をそっと撫でて行くと、その体を抱き寄せ、力の限り抱き締めた。