Phantom (ファントム) ~二人の陽人〜
「ヴァンパイアに襲われて、大変な思いをされたんですよね?
ですから、私を信用できないのも無理はありません。
でも、安心して下さい。私は貴方がたを助けに来たのですから…」
「え?…どうしてそれを…」
「言ったでしょう。ご恩返しをしたいと。
大丈夫です。奴は私が退治しました。
彼が助けてくれたこのロザリオで」
男性は、胸の前の十字架を大切そうに握り締めて、アキを見てそう言った。
「どういうことですか?俺には何が何だかさっぱり…。
あの男は…もう居ないんですか?俺達を追い掛けて来ることは…」
「はい。とにかくもう何も心配は要りません。あとは貴方がたが本来居るべき場所に帰らなければ…」
ロザリオで吸血鬼を退治…
映画の中でそんな言葉を聞いたことはある。
けれど、自分の身に起きた出来事ながら信じられない事態の連続で、今となっては何をどう信じて良いのか、サッパリわからない。
それでも、
「あの男はもう居ない」
「もう何も心配は要らない」
そんな彼の言葉に、心底ホッとしてしまう。
彼の言葉を全て真に受けて信じて良いのか、猜疑心が拭えた訳ではないが、自分達の身の上に降りかかった災難を知っていて手を差し伸べてくれる彼を信じるしか、もう助かる術はないのかも知れない…とハルは考えた。