Phantom (ファントム) ~二人の陽人〜


「あの…でも、不思議で仕方ないんです。僕はあの吸血鬼に血を捧げ、命を落とした筈なんです。
抗うことのできない痛みも苦しみも感じていたし、意識が遠退いて行った感覚も、ちゃんと覚えています。
それなのに、いつの間にか目が覚めて、まるで何事もなかったかのように、苦痛から解放されていた。
ほら、傷跡も流した血の跡も、残っているのに」


ハルは首筋の傷と、真っ赤に染まったシャツを指で指して、男性に見せながら訴えた。


男性は、眠ったままのアキに優しい眼差しを向けながらこう語った。

「この方の掌に傷があったでしょう?
その手で貴方の傷口を押さえたことで、彼の血と貴方のそれが混ざり合い、吸血鬼の毒気を消した。
そして、もう一つ。
彼が貴方の首筋と唇に、慈悲と愛を込めてキスをしたからでしょう。
毒気が消えた貴方の身体は、彼の愛によって蘇ったのではないかと思います」



「え?…そんなことが…」

「貴方が異世界に迷い込んだのも、
ヴァンパイアに遭遇したのも、
彼に助けられた実体のない私がここに存在するのも、
有り得ないような不思議な出来事ではないですか?
そう考えたら、何が起こっても不思議ではないでしょう」


確かに…彼の言う通りかも知れないが…
そう言われても、話の半分はよくわからなくて、頭はついて行かないのが正直なところで、ハルは彼の顔をただ見つめる事しかできなかった。

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