Phantom (ファントム) ~二人の陽人〜
「横断歩道を渡っている時に、この子が途中で何か言ったのは分かっていたんです。けれど、私は最近、耳が遠くなり、聞き取れていなかった。
横断歩道の信号も〝あと10秒〟と表示が出ていたし、老人の私と7歳のこの子の足では、急がないと渡れないと焦ってしまって…、ここまで引き摺るように連れて来てしまったんです。
あの時、すぐにちゃんとこの子の言葉を聞いてあげれば良かったのに。
ご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした。本当にありがとうございました」
老紳士が深々と頭を下げると、少女も同じように頭を下げた後、アキの顔を嬉しそうに見つめた。
「この子の父親…私の息子なんですが…去年亡くなりましてね…。
このネックレスは形見なんです。
孫はこれを肌身離さず大事にしていたので…
あのままになっていたら、車に牽かれてバラバラになり、無残な状態になっていた事でしょう。
そうなってしまった時の、孫の落胆や悲しみは想像できたものの、この子を危険に晒す訳にはいかないと、それだけを強く思ってしまったので。
本当に、本当に、ありがとうございました」
「そうだったんですか…。そんなに大切な物なら尚更、無傷で返すことができて、良かったです」