Phantom (ファントム) ~二人の陽人〜
ハルは目を開けると、空を仰いだ。
高く伸びた木々の葉の隙間から漏れる月灯りが、妙に眩しい。
月を見上げたことなど、いつ振りだろう…。
忙しさにかまけて、思いつきも気づきもしなかった。
都会では、ビルや街灯など灯りが多過ぎて、月の存在感が薄くなっていたのかも知れない。
月の光って、こんなに優しくて綺麗だったんだな…。
穏やかな月灯りに、アキの穏やかな表情を重ねた。
いつも直感で行動し、喜怒哀楽の激しい俺の気持ちを、
いつもアキは穏やかに包み込んでくれていた。
俺が浮かれてハメを外しそうになると、嫌味なくいつの間にか軌道修正してくれていたし、
腹を立てたり、ヤケになったり、愚痴ったりした時も、
いつの間にかなだめられて、
怒っていたり、際限なく落ち込んでいた事さえ、とても小さな事に思えて、胸に巣食ったしこりはいつの間にか消えていたのだ。
今までどれだけ彼に救って貰い、癒やされて来たのかわからない。
アキは、いつも俺を穏やかに包んでくれる月のようだった。