夢幻の騎士と片翼の王女
吟遊詩人と王子(side リュシアン)
「ありがとう、ルーネ。
また明日も頼む。」

「かしこまりました。
それにしても、リュシアン様…あなた様の声はとても素晴らしい。
音程も正確ですし、その上声量もありますし…私は聞き惚れてしまいました。」

「世辞は良い。」

「お世辞なんかじゃありません。
本当に感動致しました。」

「わかった、わかった。
とにかく、また明日も頼んだからな。」

若い吟遊詩人は、深々と頭を下げ、去って行った。



私達の声は、亜里沙に届いただろうか?
少しでも慰めになっただろうか?
私は、幽閉の塔を見上げた。
ほのかな月明かりに照らされて、塔のシルエットが浮かび上がる。
この高い見張り台より、さらにずっと高いあの場所で、亜里沙は今夜もまた沈んでいるのだろうか?


なにがあったのかはわからない。
ただ、亜里沙は明らかに俺に救いを求めていた。
それは、あの時の声ですぐにわかった。
しかし、メイドに邪魔をされた。
きっと、亜里沙は薬か何かで眠らせられたのだろう。



塔に閉じ込められていることだけでも心細いだろうに、さらに、その塔の中でも相当不自由な想いをしているようだ。
なんとかしてやりたいが、俺に出来ることはないに等しい。
せめて、気晴らしに話でも出来れば良いのだが、そんなことも禁止されているようだ。



可哀そうに……
そう思った時、なぜだか幼い頃母の歌ってくれた子守歌を思い出した。
あの歌を歌ってもらうと、とても心が休まり、安心して眠れたものだった。



俺は、降り始めた階段の中ほどでその歌を歌った。
せめて、少しでも亜里沙の気持ちが落ち着くように…と。



想いをこめ、亜里沙に向かって子守歌を歌った。
情けないことに、俺に出来ることは、そのくらいしかなかったから…

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