夢幻の騎士と片翼の王女
諦めと羨望(side 亜里沙)
「あら?今夜は、伴奏がついてますわね。」

メアリーさんがそう言って、にっこりと笑った。
彼女の言う通り、今夜の歌には楽器の伴奏が付いていた。
最初の頃についていたあの少し物悲しいギターのような音色だ。
だけど、歌声はあの時とは違い、一人だけ。



やはり、伴奏が付くと、歌に華やかさのようなものが増す。
今夜の歌も恋愛のものだった。
戦争に行った好きな人のことを想う女性目線の切ない歌詞だった。
とても心がこもっていて、聞いているとじんわりと目が熱くなった。



(どんな人なんだろう?)



こんなに感動する歌を歌える人だもの。
きっと、心の優しい人だと思う。
声の調子からして、まだ若い男性だろう。
雨の日以外は一日も休んだことがないから、一途で意思の強い人…



(何のために?)



こんなに毎晩歌うってことは、きっと歌が好きなだけじゃない。
じゃあ、なんだろう?
歌手を目指してるとか?
それとも、好きな人がいて…なんらかの事情でその人となかなか会えないから、その人を想いながら歌ってる…とか?



もし、そうだとしたら、とっても幸せな人だな。
こんなに深く愛されるなんて…



(羨ましい……)



欲のためだけに、側室にされる私とは大違い。
こんなことなら、もっとたくさん恋愛しとけば良かったな。
息苦しくなるくらい、誰かに愛されたかった…



(そんなこと考えても、今更どうにも出来ないのに…)



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