夢幻の騎士と片翼の王女
愛しさと切なさと(side アドルフ)
(アリシア……)



月の光に映し出される幽閉の塔を見上げ…
アリシアとの時間を思い出し、不意に、笑みがこぼれた。



やはり間違いなかった。
姿かたちは変わっていても、あれは間違いなくアリシアだった。
心の真ん中に宿る彼女の魂が、私の魂を強く揺さぶるのを感じた。



今は異国の者となったアリシアだが、あの好奇心旺盛な瞳の輝きは当時と少しも変ってはいなかった。
生まれ変わっても、やはり、受け継がれるものはあるのだと思えた。



しかし、あんなにおどおどして…
そのあたりは王女だったあの頃とは全然違う。
王女だったアリシアは、子供の頃から威圧感のようなものを持っていた。
今は、平民の娘のようだから、それも仕方のないことだが…
そういえば、異国の者とはいえ、アリシアのような者はいまだ会ったことがない。
どうやってここに来たのだろう?
どこの国の出身なのだろう?



また不意に笑みがこぼれた。



アリシアに訊きたいことはたくさんあったのに、今日の私は舞い上がっていて、何も聞けなかった。
一体、どんなことを話しただろう?
そうだ…確か、天気のことや食事のこと…



(なんとくだらないことを話したことか…)



自分の愚かさに苦笑した。
しかし、焦ることはない。
また明日も会えるのだ、明日だけではない、明後日も、またその先も…
あと半月が過ぎれば、あんなところではなく、もっと…



そうだ…アリシアに屋敷を与えよう。
何もこんな窮屈な城に住まわせる必要はない。
どこか、景色の良いところに広い屋敷を建ててやろう。
それとも、ランダシアの別荘を与えようか…あそこなら、景色も広さも申し分ない。
あそこでアリシアと二人で暮らすのも良いかもしれない。
しかし、やはり新しい屋敷の方が良いだろうか?
あぁ、こんなことならもっと早くから取り掛かっておけばよかった。
とりあえず、明日、アリシアの意見を聞いてみよう。



考える事すべてが楽しくて、遅い時間だというのに私は全く眠気を感じなかった。
< 162 / 277 >

この作品をシェア

pagetop