夢幻の騎士と片翼の王女




「リチャード!!」

棺の中には、白い百合に囲まれ、安らかな顔をしたリチャードが眠っていました。
彼はいつもと何も変わらず、今にも起きだしてきそうです。



「リチャード…悪ふざけはやめて…
ねぇ、起きて…起きてよ…!」

私は彼の肩を揺さぶりました。



「アリシア、およしなさい。
彼はもう死んだのです。」

「そんなことありません。
彼は生きてます!
だって、彼はまだ若くて健康で……
ね?リチャード…そうよね?
ふざけてるだけなのよね?」

「アリシア!」

乾いた音が、部屋の中に響きました。
お母様が私の頬を打ったのです。



「お母様……」

手を挙げられたことは、生まれて初めてのことでした。
頬の痛みが頭に伝わり、私を正気に戻し、その途端に熱い涙が込み上げました。



「お母様…私……」

「アリシア…リチャードは神の元へ旅立ったのです。
ジョシュアと同じように……」



(ジョシュア兄様と同じように…)



その言葉が、リチャードの死を俄かに強く感じさせました。



「お母様……リチャードは、わ、私のために…」

「その通りです。
でも、そのことをあなたが気に病むことはありません。
リチャードは、自分の役目を全うしたのですから、思い残すことはなかったでしょう。」

「そ、そんな!リチャードは……リチャードは……」

「彼は最後に、あなたの無事を確認したそうです。
無事だとわかると、とても満足したような顔をして事切れたと、メアリーが申しておりました。」



(リチャード……)



最後の最後まで、リチャードは私の身を案じてくれた。
そのことが、ありがたくて嬉しくて…そして、苦しくてたまらない気持ちになりました。


< 18 / 277 >

この作品をシェア

pagetop