夢幻の騎士と片翼の王女




「わかった。
では、それに沿うような屋敷を建てよう。」

「あ、ありがとうございます。」



話が一段落し、気まずい沈黙が流れた。



「話し合いはこのくらいにしておこう。
今日は疲れているだろうから、もう部屋に…」

「あ、アドルフ様…わ、私……」

「なんだ?」



言うしかない!
このまま部屋に戻ったのでは、頑張ってここに来た意味がない!



「アドルフ様…私は…あなたの側室ですよね?」

「今更、なぜそのようなことを訊く?」

「え…えっと……その…
で、でしたら、今夜、私を…その…」

いざとなるとやっぱり言いにくくて、もごもご言ってたら、アドルフ様の表情がだんだん強張って来て…



「……誰かに言われたのか。
私を誘惑しろと。」

「と、とんでもございません。
そ、その…だから、私……」

「アリシア……」

アドルフ様は、私の手首をきつく握られた。



「良いか、良く聞け。
誰に何を言われたのかは知らないが、こういうはしたない真似は二度とするな。
私は欲のために、おまえを側室にしたのではない。
私は…私は…お前の心がほしいのだ。」

「……こ、ころ…ですか?」

それは、とても意外な言葉で…
私にはアドルフ様のおっしゃる意味が良くわからなくて…



「そうだ…私は…おまえを本気で愛している。
私には妃がいるのに何を…と思うかもしれないが、ジゼルには愛情の欠片さえもない。
王子と言う立場上、あいつとは別れることは出来ないが、私は…私はおまえを愛してるのだ。」

「アドルフ様…」



リュシアン様と同じだった。
その灰色の瞳には、嘘は微塵も感じられない。
なんだか怖くなる程に、その視線はまっすぐだった。



「私は、おまえの心が欲しい。
私のことを心底愛し、信頼してほしい。
少しずつで良いんだ。
焦らず、少しずつ、私のことを知ってくれ。」



アドルフ様の話を聞いてたら、なんだか自分自身が恥ずかしくなって、涙がこぼれた。
だって、アドルフ様は本当に真剣に話して下さったんだから。
恥ずかしくて情けなくて、溢れる涙はどんどん激しさを増した。
アドルフ様は、そんな私の涙を優しく拭って下さった。



「ごめんなさい、アドルフ様。」

「気にするな。
さぁ、部屋に戻ってゆっくりと眠りなさい。
私が部屋まで送って行こう。」

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