夢幻の騎士と片翼の王女
「亜里沙…本当にすまなかった。
おまえにはとても悪いことをしてしまった…」

「……どういうことなんです?」

「ジゼルがあんな真似をしでかしたのは……俺のせいかもしれない。」

「どういうことです?……意味がよくわかりません。」

私がそう言うと、リュシアン様は、拳を握り締め、唇を固く噛み締められた。



「リュシアン様…?」

「……ジゼルにおまえのことを訊ねられたんだ。
アドルフは、最近ほとんどずっとおまえの傍にいただろう?
だから、きっと、ジゼルは誰かにそのことを相談でもして、そして側室であるおまえの存在を知ったのだと思う。」

「えっ!?……では、ジゼル様は今まで私の存在をご存じなかったんですか?」

「どうやらそのようだ。
しかし、側室を持つことはそう珍しいことではない。
だから…まさか、ジゼルがあんなことをするなんて、思ってもみなかった。
第一、おまえは最近は城にもあまり来なかったし、あの屋敷の場所は俺でさえ突き止められなかった。
だから、いやみを言われることすら、ないと思っていた。
なのに…ジゼルは、意外にもおまえの屋敷を突き止めた…」


アドルフ様がジゼル様の元にあまり戻られないことは私も心配はしていたけれど…ジゼル様はお子さんのことにかかりっきりでアドルフ様には関心を持っておられないってお聞きしていたのに…そうじゃなかったの?



「ジゼルの様子がおかしかったから、俺はすぐにあいつの後を追った。
馬車が停まった先がおまえの屋敷だということを、俺は直感で感じた。
ジゼルは、思いつめたような顔をして屋敷に入って行った。
もし、喧嘩にでもなったらまずいなとは思ったが、屋敷には使用人もいるはずだし、そんな大事にはならないと思っていた。
アドルフが、ジゼルにびんたのひとつでもくらったら面白いと…そんなことを思って、俺は暢気に屋敷の傍で様子をうかがってたんだ。
まさか、あんなことになるなんて、考えもしなかった!」

リュシアン様は感情的な声でそう言われると、眉間にしわを寄せ、深く俯かれた。
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