夢幻の騎士と片翼の王女
(ここだ!)



俺は、ある大きな木の傍で立ち止まった。



はっきりと思いだした!
俺は、あの時、吟遊詩人の歌を歌いながら、薄暗くなり始めたこの森の中を歩き、歌が終わった場所に箱を埋めた。
出来るだけ小さな歩幅で歩いたつもりだが、あの時と今とでは俺の歩幅は全然違う。
このあたりで一番目立つのはこの木だ。
きっと、ここに違いない。



「あっ!」



その木の根元に小さく『✖』の印が刻まれているのを俺はみつけた。
興奮のあまり、にわかに鼓動が速くなる。
俺はその木の根元を掘った。
間違いない!
必ず、あの箱はここにある!



自分に言い聞かせるように何度も心の中で呟いて、俺は木の根元を掘り続けた。



「あ…」



指先に何か固いものが触れた。
俺は逸る想いを押さえ、慎重にその場所を掘り進めた。
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