夢幻の騎士と片翼の王女




「リュシアン王子、おめでとうございます!」

「亜里沙様、おめでとうございます!」



ユーロジアに戻ってから数か月後、私達はついに結婚した。
国王御夫妻は、複雑なお気持ちかもしれないけれど、リュシアン様が身を固められたことについては、やはり喜んでおられるようだ。



国民たちが私たちの結婚を祝い、小さな旗を振ってくれている。
私達はそれに応えるように、バルコニーから手を振り返す。
婚礼の儀式も間違えずに済んで、私はほっと胸をなでおろした。



「亜里沙…とても綺麗だ。」

「あ、ありがとうございます。」



家族のことを想うと胸は痛むけど…
だけど、後悔はしていない。



私の取った行動が正しかったかどうかはわからないけれど…
たとえ間違っていたとしても、私には後悔はない。



愛する人と離れるのはもういやだから…



リュシアン様とは、どんなことがあっても絶対に離れない…!



「おぉ、亜里沙…あそこに…」

「まぁ…」



リュシアン様の指さす先には、大きな虹が架かっていた。



「ユーロジアでは、虹は幸せの前兆なんだ。」

「日本でもそうです。」



私達は、空にかかる虹をみつめた。
世界は全然違うけど…ユーロジアの虹も日本と同じ七つの色だ。



「リュシアン様…なにか、歌を歌っていただけませんか?」

「そうだな…それでは…」

リュシアン様は深く息を吸い込んで…



『空に輝く虹の橋よ、どうかあの子に伝えてほしい…』

低くて響きのあるリュシアン様の声に、私は耳を傾けた。
それは、旅人がある田舎の町で美しい女性に恋をして、想い悩む恋の歌だった。



「……素敵な歌ですね。」

「幼い頃に覚えた歌だ。
今日は少しばかり歌詞を変えた。」

「そうなんですか。」

私がリュシアン様にしなだれかかると、リュシアン様は私の髪を優しく撫でて下さった。



「君の髪は、猫よりも触り心地が良いな…」

リュシアン様の指の感触に、私はうっとりと目を閉じた。



(リュシアン様、私、ずっとあなたについていきます。
あの虹に誓って……)



見上げた虹の向こう側で、両親や兄さんが微笑んでいるような…そんな気がした。



~fin.
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