夢幻の騎士と片翼の王女
＊



「アドルフ様！」

部屋に入ると、満面の笑みを浮かべたジゼルが両手を広げ、私を出迎えた。



「ジゼル…」

私は、感情を押し殺し、ジゼルを抱き締め、彼女の唇に私の唇を重ねた。
まるで、なめくじでも口にしたような不快感を感じ、私は込み上げる吐き気を懸命に押さえた。



「お疲れになったでしょう？」

「君の方こそ…」

「いえ。私は疲れてなどおりませんわ。」



そう言うジゼルの瞳はぎらぎらと輝いていた。
まるで、発情した獣のような瞳だった。
私はこれから彼女の欲しているものを与えてやらねばならないのだ。
そう思うと、吐き気はさらに強まった。



「誰か…ワインを持て！」

「はっ、今すぐに…！」



酒でも飲まなければやってられない。
多少は酔っていたが、この程度ではとても無理そうだ。



「アドルフ様、お待たせいたしました。」

「もっとだ。こんなもんじゃ足りない。」

「は、ははっ。申し訳ありません！今すぐに…！」



私はグラスにワインを注ぎ、ぐいとあおった。



「アドルフ様、私が…」

「構わないでくれ。」

ついきつい口調で言ってしまい、しくじったと思った私は無理して作り笑顔を浮かべた。



「これでも、けっこう緊張しているのだよ。」

そう言って微笑むと、ジゼルは安心したように微笑み返した。
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