夢幻の騎士と片翼の王女
「先に湯浴みを済ませろ。」

「は、はい…」

浴びる程ワインを飲んで、私はもう立っていることもままならない状態だった。
これだけ飲めばさすがにもう大丈夫だろう。



ただ、困ったことに眠くてまぶたが下がって来る。
このまま眠ってしまいたいところだが、そうはいかない。
私は、今からジゼルの夫としての義務を果たさねばならないのだ。



込み上げて来るあくびを噛み殺し、ぐいぐいと水を飲み干した。
もうしばらくは眠らないようにしなくては…



そう思いながらも、いつの間にか私は転寝してしまってたようだ。



「アドルフ様……」

名を呼ばれて目を覚ますと、そこには、薄い寝衣を着たジゼルが恥ずかしそうに立っていた。
これが愛する女なら、その姿を見ただけでその気になれるのだろうが、ジゼルには何も感じない。
私は彼女から目を逸らし、ゆっくりと長椅子から立ち上がった。



「あっ!」

足がもつれ、危うく転びそうになるのをなんとかバランスを取り、立て直した。
私に駆け寄るジゼルの手を、思わず振り払ってしまった。



「すまない。私のことなら心配ない。
湯浴みをしてくる。」

それだけ言い残し、私は浴室に向かった。



熱い湯に身体を浸し、これからのことを考える。



(我慢だ…子さえ作れば、私は役目を果たしたことになる。
あとは、アリシアと二人で幸せに暮らせるのだから…)



そうだ…いやなことは早く済ませてしまおう。
これから、毎日、ジゼルを抱いて…抱きまくってやる。



(まるでリュシアンだな…)



義兄弟とはいえ、おかしなところが似るものだ。
私の笑い声が、浴室に響き渡った。
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