ヴァージンの不埒な欲望
お願い
どうしてあんな事ができたのか、自分でもわからない。
いや、考える前に、勝手に身体が動いていたのだ。
美しく凛とした後ろ姿を追って、一歩を踏み出す。
走り出したい衝動を抑えながら、精一杯早足で歩く。あぁ、その人の大きな一歩に、コンパスの差を感じる。
なんて声をかけるかなんて、全然考えていない。とりあえず、私が怪しい者ではない事をわかってもらわなきゃ。
肩に掛けたトートバッグの中を探り、財布を手に取る。
ちょっと目を離した隙に、その人は自動ドアを出る所だった。
まずい!外に出られてしまうと、見失ってしまうかも!
とうとう早歩きから、小走りになった。本棚の間から出てきた人にぶつからないように、注意を払う。
微妙に足を縺れさせながら、書店の外に出る。眼鏡のブリッジを軽く上げ、右、左を見て、いたっ!背の高いその人の後ろ姿を、すぐに見つけた。
背が高いだけじゃない。後ろ姿だけでも、やっぱり周囲の目を引くオーラみたいなものを感じる。
あっ、今すれ違った女の子、思わず足を止めて振り返ってる。
そこで自分も立ち止まり、その人の後ろ姿に見惚れていた事に気付く。
「やばっ」呟きながら、駈け足で追いかける。
駅前の賑やかな大通りだから、午後九時を過ぎた時間でも、それなりに人通りはある。
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