ヴァージンの不埒な欲望
その人の言葉が纏う棘に、チクチクと刺される。
「すっ、すみません!にっ、二年くらい前から、いつも行く書店であなたを見かけるようになりました。ステキな方だなぁと、一目で惹かれました。それから月に二~三回、書店で出会うたび、勝手にあなたをずっと見てました」
自分の言っている事が恥ずかしくて、俯きながら言った。
「本当にそれだけですか?私の名前や住所、何も知らないと?」
不審げなその人の言葉に、思わず顔を上げた。
「本当に、それだけです!」
「わかりました。後をつけられたり、突然知らない女性が自宅を訪ねてきたり。今までストーカー紛いの事もされてきたので、あなたの事も疑いました」
小さく息を吐いた後、その人はそう言った。
『後をつけられる』そんな事、夢にも思わなかった。目立ちすぎると、そういう被害にも合うんだと勝手に同情した。かなり、大きなお世話だけど。
「だとしたら、書店でたまにしか見かけない、顔を知っているだけの男に『ヴァージンをもらって』なんて言ったんですか?“初体験”て、何をするものか本当にわかっていますか?」
さっきとは違う小バカにしたような物言いに、私はちょっとカチンときた。
「これでもアラサーです。私なんかでも、ちゃんとわかっています。あなたの事は何も知らないけど、優しい人だという事は知っています。今日書店で、迷子になっていた男の子とぶつかりましたよね。その後、その男の子の手を引いて、お母さんを一緒に探してあげました。『子どもと動物に優しい人は、本当に心の優しい人』これは私の持論です!」