ヴァージンの不埒な欲望

あまり近くに居すぎて、拓夢さんが私の存在に気付いたら……むしろ、拓夢さんを慌てさせてしまう事になるかも。

私が拓夢さんを見る事ができて、簡単に拓夢さんの目に入らない場所にいよう!

そう考えた私は、テーブルを挟んだ拓夢さんの真向かいの席から三つ程席をずらし、読みかけだったエッセイを持って座った。

読み始めた頃は、拓夢さんの様子を気にしながら読んでいた。そっと視線を上げて、変わらず拓夢さんが、ワクワクしながらページを捲っているのを見た。

クスッと笑みが溢れて、私も読んでいる本に再び視線を落とした。そんな事を、二~三度繰り返した。

までは、よかったのだが。

漫画家さんとお父さんのジンと心温まるエピソードが書いてあった章を読み終えて、私はフッと一息ついた。

いくら話しても、漫画家になる事を頑なに反対していたお父さん。説得する事は、諦めていた。が、その漫画家さんの初連載が載った月刊誌を、お父さんは何冊も買い込み周囲の人に配っていた。実はお父さんは、漫画家を目指している娘の事を、陰ながらずっと応援していたのだ──

父が私の事を、そんな風に想ってくれる日がくるのだろうか?

自然と肩が落ちる。

わずかに意識が現実に戻ると、自分の右側の方からの気配が気になった。

「っ!」


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