ヴァージンの不埒な欲望
コインロッカーからバッグを取り出し、図書館の自動ドアを潜った。建物の外に出て五~六メートル歩き、ピタリと足を止めた。
拓夢さんも、すぐに気が付いて足を止めてくれた。
「拓夢さん、ごめんなさいっ!」
身体を半分に折って頭を下げた。
「こっちの方こそ、ごめん。俺が先に本に熱中しちゃったから、愛美ちゃん、待っててくれたんだよね」
眉尻を下げながら言った拓夢さんに、「それは全然いいんです!」と首を横に振りながら言った。
「それじゃあ、今回の事はおあいこって事で、もうよしにしよう!」
拓夢さんが楽しそうにくしゃっと笑ったから、思わず「はい」と頷いてしまった。
「歩こうか」と拓夢さんに促され、駐車場に向かいながら話す。
「本を見終わってから初めて、時間を気にしたんだよ。時計を見て、驚いた。もう、一時になる所だったから」
一時!私、三十分近くも拓夢さんを待たせていたのか。ガクッと肩が落ちた。
「慌てて席を立とうとして、斜め前に愛美ちゃんが座っている事に気が付いた。愛美ちゃんの本を読む顔がおもし……楽しそうで、思わず観察しちゃったよ」
ん?拓夢さん今、私の顔が『おもしろい』て言おうとしたでしょ。
「人が本を読んでいる顔をじっくり見たのって初めてだったけど、みんなあんなに表情豊かなのかな」