ヴァージンの不埒な欲望

拓夢さんの言葉に、私の顔がカッと熱を持つ。子供の頃、兄に何度か笑われた。本を読みながら、百面相をしていると。大人になってからだと、萌に言われた事がある。

本を読んだその感情が、全部表情に出てしまっていたようだ。それからは、表情を変えないように気を付けた。でも本に夢中になってしまうと、自分の表情にまで意識が回らない。

だから人前で、集中して本を読まない事にした。本屋さんで立ち読みする時は、試し読みのつもりで一冊八ページまで。乙女系ノベルなら、プロローグはだいたい読める。図書館に行った時は、周りに人が少ない場所を選んで本を読んでいる。

今回は集中して読むつもりがなかったから、自分の顔の事など全く考えていなかった。

あぁ、恥ずかしい!私は、どんな顔をして読んでいたんだろう。

羞恥で口ごもる私に、気付いているのか、いないのか。拓夢さんは、楽しそうに話し続ける。

「眉間に力が入っていると思ったら、目を丸くしていたり。目元と口元が緩んだと思ったら、瞳をウルウルさせていたり。愛美ちゃんは今、どんな場面を読んでいるんだろうと想像してみるのも、おもしろかったよ」

私の顔真似をしながら、話す拓夢さん。最後にそんな風にきれいに微笑まれたら、恥ずかしさは増すのに、何も言えなくなるじゃない。

「俺がじっと見てても、愛美ちゃん全然気が付かないから。隣の隣に座っても、気付かないかな?いつ気付くのかな?なんてワクワクしながら、愛美ちゃんをずっと見てた」


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