ヴァージンの不埒な欲望
拓夢さんの柔らかい声音に、ようやく私は顔を上げて拓夢さんの顔を見た。
「拓夢さんのお母さまには、敵わないですけど。私なりに、がんばりました」
拓夢さんは優しく微笑むと「せっかくだから公園に行こう」と、車を出した。
私の作ったお弁当、大丈夫かな……不安と緊張で、心臓はバクバクと激しく動いている。
そんな中でも、先程の事が気にかかる。拓夢さんが言いかけた事。訊いてみようか?でも、大した事じゃないから止めたのかも。
いつもの私なら、絶対に何も訊かない。でもその時の私は、いつもと違う拓夢さんが見られた事に勇気をもらっていた。 「すっげえ」てはしゃいで話す拓夢さんに、もう一度会いたかった。
「よし!」と、心の中で自分に気合いを入れる。「拓夢さん」と呼びかけようとした時だった。
「前にさ、加賀見に言われたんだ」と、拓夢さんの方が先に口を開いた。
「・・・はい」
私は自分の言葉を呑み込んで、なんとか返事をした。
「『そんなに船や飛行機が好きなら、それに関連した仕事に就けばよかったのに』て。その時まで、そんな事を微塵も考えた事がなかったから。ああ、その手があったかって思ったよ」
拓夢さんは、クスッと笑って続けた。