ヴァージンの不埒な欲望
カレンダーは、十月となっていた。真夏に比べて、ずいぶん日射しが柔らかくなった。そよそよと吹く風も爽やかで、夏が終わり秋になったんだなぁと自然に思える。
木製のベンチは、わりときれいだった。それでも拓夢さんは、ベンチの表面に息を吹きかけながら手で払い、きれいにしてくれた。
「どうぞ」と促され、「ありがとうございます」とお礼を言って腰かけた。拓夢さんも、私の右隣に座る。
フッと小さく息を吐き、左脇に置いた保冷バッグから、おしぼりの入ったケースを取り出した。
「おしぼりです。どうぞ」
「ありがとう」
それぞれ、おしぼりで手を拭く。通常より、しっかりと丁寧に拭いていた。指先が微かに震えながら、拓夢さん用のお弁当箱を取り出す。割り箸を上に乗せて、両手でお弁当箱を拓夢さんに差し出した。
「どうぞ。お召し上がりください」
拓夢さんが、クスッと笑った。「ありがとう」と私の手から、拓夢さん元へとお弁当が渡ってしまった。
もう、ダメだ……今さらのように、どうしてお弁当作りを了承してしまったのだろうと、後悔する。
拓夢さんの方を見る勇気もなく、ずっと目線を俯けたまま、自分のお弁当を保冷バッグから取り出し膝の上に乗せる。
私の全神経は、右側にいる拓夢さんの気配を探る。
割り箸を割ったような音の後「いただきます」と、拓夢さんが言った。「召し上がれ」と呟くように返して、拓夢さんの次の動きを待つ。