ヴァージンの不埒な欲望

「ラストは、考えさせられました。あの子は、どうしてあんな事をしたんでしょう。大変な事になるって、わかっていなかったのかな」

最後の方の場面を思い浮かべながら、呟くように言った。

「どうかな。でも、俺は彼女の気持ち、わかるような気がする。自分の存在を、認めたかった。認めてほしかった……」

拓夢さんはどこか遠くを見るようにして、そう言った。拓夢さんも、映画の場面を思い浮かべているのだろうか。

同じ映画を観ても、みんなが同じ事を感じるとは限らない。それは当然の事だ。その事を、すごく不快には思わない。少なくとも私は今、不快にはなっていない。

先週の図書館でもそうだったが、そういう見方もあるんだと、おもしろく感じる。違う側面からみた事で、より深くその作品に触れたような気持ちになる。

あの時、私も友人に話してみればよかったのだ。「確かに普段のイメージとは違うけど、よかったよ。さすがプロだと思ったよ」と。

「そろそろ行こうか。お腹が空いてきちゃったよ」

拓夢さんが、腕時計を見ながら言った。映画が終わるのは、十二時半くらいだった。その後、ここで話したから一時くらいにはなるかもしれない。

「そうですね。行きましょう」

二人で映画館を出た。今日のお弁当も、あの公園で食べるつもりだった。ただ、今日は朝からシトシトと雨が降っていた。そのせいか、風が強いわけではないが肌寒さも感じた。


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