ヴァージンの不埒な欲望

予報では、一日雨だった。そうなると、先日の公園でお弁当を食べるのは無理だ。どこで食べればいいだろう?私は車の中でも、いいと思うけど。拓夢さんは、嫌かな。

「雨、まだ降ってるね」

映画館の中からは、屋外が見えなかった。私が一人で考え込んでいる間に、ショッピングモールの中の屋外が見える場所まで移動していた。灰色の厚い雲から落ちる雨を見ながら、拓夢さんが溜め息混じりに言った。

「あの!お弁当を食べる場所、私は車の中でもいいと思います。キャンプのテントの中みたいで、おもしろそうだなぁって。その、拓夢さんが嫌でなかったら、ですが」

その時、ふと思った事も付け加えて『車の中でのお弁当』を提案してみたが。頭の中で自分の言葉を繰り返せば、ちょっとおかしな事を言った気がする。

キャンプは、学校行事で数える程しかしていないが、その少ない体験では、テントの中で食事をとった覚えはない。なのに「キャンプのテントの中みたいで、おもしろそう」なんて、的外れな発言だ。

恥ずかしさで、ジワリと頬に熱を持つ。

「そうだね。そういうのも、おもしろいかもね」

クスリと笑って、拓夢さんは私の提案を受け入れてくれた。こういう所に、拓夢さんの優しさを感じる。

「さすがにここの駐車場では気分が出ないから、やっぱりこの前の公園の駐車場まで行こう」

赤く染まっているであろう顔を隠すように、そっと俯いた。そして拓夢さんの言葉に、「はい」とできるだけはっきりと返事をした。


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