ヴァージンの不埒な欲望

会話が途切れた時、今日ずっと心の片隅で思っていた事が、ふいに私の口から溢れた。

「ん?」

先を促すように、拓夢さんは小首を傾げながら私を見た。だから、そういう姿も可愛くてカッコいいです、拓夢さん。

小さく息を吐いて、私は口を開いた。

「本を読む事は、子どもの頃から好きでした。図書館にも、時々行ってました。社会人になって、映画館のレディースデイには、安く映画を観られる事を知りました。いろんな映画を観て、笑ったり泣いたり感動したりしました」

拓夢さんは薄く微笑みながら、私の言葉を聞いてくれている。思わず溢れた言葉をきっかけに、こんな風に自分の想いを話す事になるなんて。でも、私は拓夢さんに伝えたいのだ。

一気に緊張して震えそうになる喉をごまかすように、お茶を一口飲んだ。

「ショッピングやおいしい物を食べに行く時は萌と一緒でも、図書館と映画館に行く時は、ずっと一人でした。だから、だんだんと思うようなっていました。一人ぼっちの私にできる事は、こんな事ぐらいだって」

「愛美ちゃん……」

拓夢さんの表情が、微かに曇る。大丈夫です、拓夢さん。

「好きで、楽しいからしていたのに、それもよくわからなくなっていて。でも、ちゃんと思い出しました。それどころか図書館も映画館も、一人じゃなくても楽しめる場所だと気付きました。拓夢さんが、教えてくれたんです。ありがとうございます!」


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