ヴァージンの不埒な欲望

「おかえりなさい。愛美(あみ)が最後だから、早くお風呂に入っちゃいなさい。お弁当箱と水筒、洗っておくから出しておいて」

「あっ、ごめん!ありがとう!」

トートバッグからお弁当箱とマグボトルを取り出す。

「愛美、今日はやけに遅かったな」

隣のリビングにいた父から、不機嫌さを滲ませた声をかけられた。

母の目が頷いたので、お弁当箱とマグボトルを手渡して、隣のリビングに移動する。

周りに気付かれないように溜め息をつく。

『星野 愛美(ほしのあみ)』──アイドルか少女マンガの主人公のようなこの名前が、私のフルネーム。

地味な私は「名前負け」なんて、よくからかわれた。

父が名付けたと母に聞いたが、なぜ『愛』の字を使ったのか。こんな私でも、父に愛された頃があったのだろうか……

「帰りました。遅くなって、ごめんなさい」

ソファーに座っていた父に、頭を下げる。

「若い娘がこんな時間まで、街中(まちなか)をウロウロしているのは考えものだな」

若い娘?私はもう二十六才だし、『こんな時間』と言っても、二十三時を過ぎたばかりだ。

そんな思いを飲み込んで、口を開いた。

「ごめんなさい。書店でおもしろい本を見つけて、ついつい夢中で立ち読みをしちゃいました。これからは、気を付けます」

もう一度頭を下げたら、溜め息で返された。


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