ヴァージンの不埒な欲望
「お風呂に入ります」
父と目線を合わせないように、リビングを出た。
あの父につらつらと嘘が言えるようになったのは、私が少しは“オトナ”になった証拠だろうか?
普段は職場と自宅の往復だけ。残業が多い職場でもない。仕事帰りには、たまに同じ市内にあるショッピングモールに買い物に寄るか、あの書店に立ち寄るくらいだ。
趣味といえるものもない私にとって、本を読む事と、たまに観に行く映画は数少ない楽しみだった。
大学を卒業して、父の知り合いの会社に就職した。
就職して一年が経った頃、ショッピングモールの中にある映画館の“レディースデイ”を知った。毎週水曜日は女性のチケット料金が千円になるのだ。
それから月に二~三度レディースデイの日、仕事が終わったら一人で映画を観に行くようになった。
仕事が終わるとショッピングモールのレストランやフードコートで夕食を済ませ、映画を観る。
映画が終わった後、ショッピングモールのお店や、あの書店に寄る事もある。
いつもは十九時までには帰宅している私が、その日だけは二十二時くらいの帰宅になる。
私の行動に煩い父だが、これくらいは許してくれていた。
が……通常とくらべ一時間程遅くなった帰宅は、許されないようだ。
普段より手早くお風呂に入る。寝る準備を整えて、ベッドに入った。
いつもと違う疲れを感じながらも、気分は妙に高揚している。