ヴァージンの不埒な欲望
怒らせてしまった。私は父を、怒らせたうえに嫌われてしまったのだ。
幼い私はそう思った。
どうして怒らせたのかは、わからない。でも、私はその事を何の疑問もなく受け止めている。
それどころか、それを当然の事のように思っている。
それがきっかけになったのかはやっぱりわからないが、その頃、私と父の間には見えない壁ができた。
三才くらいまでは、父と寄り添って笑顔で写る写真がたくさんあるのに、四才くらいの写真からパタッと無くなった。
この頃、父と手を繋ぐ事もできなくなった。それまでは普通に繋げていたのに。
ある日、父の大きな手に自分の手を握られた時、強い恐怖に襲われた。「イヤッ!!」と叫ぶと、父の手を振り払った。
この事も、妙に鮮明に覚えている。目を見開き薄く唇を開いた、父の驚愕する顔も。
それ以来、父は私と手を繋がなくなった。私からも手を差し出す事はなかった。
小学生になって気付いたのだが、私は『大人の男の人』と手を繋げなかったのだ。
運動会のダンスの練習で、お休みしていた男子の代わりに、担任の男の先生が入った。次、先生と手を繋ぐ…そう思った時、私はやっぱり強い恐怖を感じた。
「イヤッ!!」また叫びそうになった時、音楽が止み、ダンスの注意を違う女の先生が始めた。
肩に入っていた力を抜き、私は大きな息を吐いた。