ヴァージンの不埒な欲望
人の間を縫うように、なんて軽やかにその人を追えず、ぶつかりそうな人に「すみません!」と頭を下げながら、その人を追いかける。
「すみません!」
その人と私の間に誰もいなくなった時、思いきって声をかけた。
私の声が届かなかったのか、自分にかけられたものだと思わなかったのか、その人の歩調は緩まない。
その人にさらに近付き、手を伸ばせば届きそうな所まで追いついた。
その人が着るジャケットの背の裾を、右手でむんずと握る。
「あのっっ!すみませんっ!!」
「っっ!!」
グイッ!と私に後ろに引っ張られるように、その人は立ち止まった。
私がジャケットの裾を掴んだままなので、背中越しに私を見下ろす。
私はその人の顔を見るのが怖くて、ギュッ!と目を瞑って上半身を九十度に折り、免許証を左手に持って差し出した。
「突然すみません!決して怪しい者ではありません!私の話を聞いてください!」
時間にすれば、ほんの数秒だっただろう。そのままの態勢で固まった私には、とてつもなく長い時間に感じた。
私が勝手に、その状況を作っているのだから仕方ないけどね。
長くて深い溜め息の後、耳障りのよい低い声が私の頭上で響いた。