ヴァージンの不埒な欲望
市内の外れにある歯ブラシ製造工場に就職が決まった。
工場で製造された歯ブラシや歯間ブラシの最終検査が、私の仕事となる。
女が多いと、派閥?のようなものができたり、本音を隠した上部(うわべ)だけの付き合いがあったりと、かなり面倒だ。
でも、それに異性が絡むとさらに面倒になり、容赦がなくなる。私は痛いほど思い知った。
歯ブラシ製造工場の私の部署は、ほとんど女子従業員で、男の人は管理職だけだ。そういう職場の方が、変な気を遣わなくていいと思った。
私の最後の出勤の日。同期のあの子が、艶ぷるピンクの唇で、きれいな弧を描いて微笑んだ。
「愛美ちゃん、意外としぶといから、どこまでやろうか、考えちゃった!」
いつもと変わらないキレイな顔で、彼女は悪びれる事もなくそう言った。
これで、よかったんだ。
背筋に冷たいものを感じながら、私は「お世話になりました」と頭を下げた。
ずっと男の人は苦手だった。私は、からかわれたり、苛める対象にされるだけだし。
それでも、『恋愛』への憧れはそれなりに持っていたつもりだったけど、この事ですっかり怖くなってしまった。
会社を退職する時も、新しい職場を決める時も、父には一切相談しなかった。
これは私にとって賭けだった。父の勧めで父の知り合いの会社に入社したのだ。