ヴァージンの不埒な欲望
私が話さなくても、私が辞表を出した事を父に知られるかもしれない。そうしたら退職を止められるだろうし、辞められたとしても、また父に新しい就職先を決められるかもしれない。
次は、どうしても自分の力で就職先を決めたかった。職場で、何となく父の影を感じるのは嫌だった。
市内の外れにある歯ブラシ製造工場に就職が決まると、私は中古の軽自動車を買った。現金一括払いで。
もともとお金を使うような趣味や楽しみもほとんどない。ずっと実家暮らしで、ちまちまと貯めていたお金をドンと使った。
高校卒業の時に、とりあえず運転免許は取った。でも、それまではバス通勤だったし車の知識も全然無いので、萌と萌の彼氏に付き添ってもらって買う車を決めた。
萌の彼氏のオススメで、最近主流の軽自動車のワゴン。汚れが目立ちにくいと聞いて、色はシルバーにした。萌は、ピンクや赤の可愛い色をオススメしてくれたけど。
会社を辞めた事、歯ブラシ製造工場で働く事、通勤の為に軽自動車を購入した事。
ある日曜日、それらをまとめてリビングで寛ぐ父に報告した。
車まで買ったのは、絶対にその工場で働くという、私なりの決意表明だった。
背筋をシャキッと伸ばし、強い気持ちで父と対峙したはず、なのに。
父の眉間のシワが深くなるにつれ、私が話す声はどんどんしりすぼみなっていった。