ヴァージンの不埒な欲望
それでも父は、視線を逸らさない私から何かを感じとってくれたようだ。
深くて長い溜め息をついた後、「仕方ないな」と一応の了承の言葉を呟いた。
父の意に沿わない行動をするのは、今回で二回目だ。
私のこんなメチャクチャな行動を、父が知る事はないのだけれど。
──その人を初めて見た時の事は、今でもはっきりと覚えている。
九月、『残暑』と言うには、昼間の暑さはまだまだ厳しい。それでも夜になれば、昼間の熱が冷めやすくなってきていた。
空調が整えられた、お気に入りの大型書店。広い店内には、ちょっと個性的な雑貨コーナーや、芳しいコーヒーの香りが漂うカフェもある。
仕事が終わった後、水曜日のレディースデイだったので、映画を観に行った。
海外の大人のラブロマンス。映像も美しかった。最後に別れを選んだヒロイン達に想いを馳せ、ほぅ~っとしていた。
大きなスクリーンで映画を観た後の高揚感と、じんわりと胸に広がる切なさ。
いつもと微妙に違う感覚。でも。この感じは、悪くない。
そんな地に足が着いていない感じのまま、私は書店の棚の間をフラフラと暫しさまよった。
「ダメだ。今日は帰ろう」
何冊か手に取ってみたが、自分の中に文字が全然入ってこない事を認識した。自分に言い聞かせるように小さく呟いて、出入口に向かった。