ヴァージンの不埒な欲望
「わかりました。星野さん、とりあえず手を離して頭を上げてください」
自分の名字を言われた事にドキッとして、ジャケットの裾から手を離し、恐る恐る頭を上げる。
免許証を差し出していた事を思い出し、それで名字をと、一人で納得して慌てて免許証を差し出していた手を下げる。
右手で眼鏡のブリッジを押さえながら、そぉーっと、上目遣いでその人の顔を見れば、眉尻を下げて薄く笑いながら、私を見ていた。
こんなに間近で目が合ったのはもちろん初めてで、ポッと顔に熱を感じながら俯いてしまった。
困ってる?怒っているというよりも、困っているよね?その人の困ったような笑みに、ちょっとだけホッとする。
「ここで話すのは迷惑になるので、場所を変えましょう。どこで話しますか?」
その人の落ち着いた言葉に、今さらながら、チラッチラッと周囲を伺う。
駅前の賑やかな大通りの歩道の真ん中で立ち止まり、妙な雰囲気で話すその人と私。
通り過ぎる人達に好奇の目を向けられ、何かを囁きあいながら行く人もいる。
本当に今さらだけど、こんな状況を作り出したのは私で、目の前のその人を思いっきり巻き込んでいる。
一瞬で全身が熱くなり、それでいて背筋を冷たい汗がタラタラと流れる。
熱いんだか冷たいんだか、グチャグチャな感覚が渦巻く中、返事にならない言葉を発する。