ヴァージンの不埒な欲望
駐車場に面している裏手の出入口。自動ドアが開いて、一人の男の人が入ってきた。
ダークネイビーのスーツにラベンダー色のネクタイ。洗練された大人の雰囲気に、リクルートっぽさは皆無だ。
その人の周囲だけ、涼しげに感じる。その整いすぎた容姿も、纏う空気も、周りの視線を惹きつける。
『一目惚れ』と言うには、畏れ多い。恋愛経験がない私には、この感覚をうまく表現できない。
どこかもどかしい想いを感じながら、その人を目で追っていた。
それからの私は、書店に行く回数が増えた。週に二~三度から、ほぼ毎日。でも、その人に出会えるのは月に二~三度。会えない月もあった。
一年程経って、改めて振り返る。その人と書店で出会えるのは、いつも遅い時間。私がレディースデイの映画を観終わってから、書店に寄った時は会える確率が高い。
いつもスーツを隙なく着こなしているから、多分デキるサラリーマン。仕事が忙しい人なのだろう。でも二十一時を過ぎたような時間でも、その後ろ姿からはサラリーマン独特の哀愁のようなものは感じない。
その人を書店で見かけた時も、ビジネス書のコーナーだったり、何かの専門書のコーナーだったり。なぜか女性向け雑誌のコーナーで見かけた時は、周囲の女子の視線を釘付けにしていた。
本人は気付いているのか、いないのか。涼しい顔で、様々な女性向け雑誌を手に取っていた。
その人が文庫本を持ってレジに向かったのは、二回見かけた。