ヴァージンの不埒な欲望
偶然にも、私も好きな作家さんの本だったので、共通点を見つけたようで心が弾んだ。
名前も年も、住んでいる所も、職場も知らない。でも、その人の些細な事を知っては一人、胸をときめかせていた。
『恋』というより『憧れ』に近かったと思う。名前を知りたいとか、その人にもっと近付きたいとか。ましてやお付き合いしたいなんて事は、一ミリどころか一ミクロンも考えていなかった。
一ヶ月くらい前、父と母の会話を偶然耳にした。
父が校長を務める学校の先生が、先日結婚をした。たまたま、私と同い年だったその先生。学生の頃から、長年お付き合いをしていた相手との結婚のきっかけが、二十代の内に赤ちゃんを産みたいという、その先生の思いだったそうだ。
「赤ん坊を産むどころか、愛美はこのままだったら、一生独身(ひとり)じゃないのか?」
父が溜め息混じりに言った。「そんな事、わからないじゃないですか」と母は言ってくれたけど、すでにもう、父の気持ちは固まっていたようだった。
「愛美に見合いをさせようと思う。友人に、仲人が生き甲斐みたいなやつがいるから、彼に頼んでみよう」
「愛美の気持ちも、ちゃんと尊重してくださいね」
母が念押ししたが、多分、父の耳には届いていないだろう。
そっと自分の部屋に戻ると、私はペタンと床に座りこんだ。
私、結婚するの?
父が認めた相手とお見合いをして相手が断らなかったら、多分トントン拍子で、結婚の話が進むだろう。父がそう決めたのなら、私は逆らう事なんてできないのだ。