ヴァージンの不埒な欲望

右手をブンブンと振りながら、私は萌の誤解を解こうとする。

「ん、わかってる。“恋愛恐怖症”の愛美にせいぜいできるのは、遠くから『ステキ!』て憧れて見てるぐらいよね」

そう言ってニッコリ笑った萌は、フォークを手に取り、ナポリタンスパゲティーをパクリと食べた。

「っ!」

萌にからかわれた事に気付いた私も、スプーンを手に取りオムライスを掬って口に運んだ。

若干、唇を尖らせながらオムライスを咀嚼する。

「本の中の伯爵様に萌えていた愛美を、三次元でときめかせちゃうなんて。やっぱり生身の安西さんの威力は、相当なもんよね~」

「えっ!その言い方って……萌、拓夢さんの事、知ってるの……?」

萌の言葉に戸惑い、思わず見つめた。「フフ」と悪戯っぽく笑った萌は、意外な人の名前を口にした。

「実はね、少し前に吾朗(ごろう)くんから聞いたの。吾朗くんの会社で、社内研修があって。その講師として来た人が、年は自分とそんなに変わらないのに、すごく説得力のある話をしたって。そのうえ男の自分達から見ても、メチャメチャいいオトコだったって!」

『吾朗くん』というのは、約二年前から付き合うようになった萌の彼氏。萌より三才年上の、お兄さんの親友だ。

萌と私は、似た所がある。デキのいいお兄さんがいて、コンプレックスがある。小説やマンガなど、二次元の物が大好き。地味でおとなしい。


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