ヴァージンの不埒な欲望

大通りからほんの少し入るだけで、落ち着いたこんなステキなお店があるんだ。

マスターが、お水と温かいおしぼりを持ってくる。その人がブレンドを頼んだので、私も同じ物をお願いする。

テーブルに置かれたおしぼりで手を拭くと、その温かさに小さく息を吐いた。

おしぼりを両手で弄びながら、そっと目の前の人を上目遣いで見る。

今まで約二年その人を見てきたけど、こんなに距離が近付いた事はなかったと思う。

歩道では眉尻を下げて薄く笑っていたけど、今は無表情。

今、その人が何を思っているのか私にはわからないけど。

……やっぱり、きれいだな。男の人だけど…なんて見惚れていたら、コーヒーのいい香りが近付いてきた。

ソーサーに添えられていたミルクをカップに入れ、クルクルとかき混ぜる。

コーヒーの香りに満たされながら、一口、口に含む。

あぁ、おいしい……

チラリと目の前の人を見る。その人はブラックのようだ。ソーサーに始めからミルクが添えられていないという事は、その人はこのお店の常連なのだろう。

上目遣いで、伏せられた瞳を覆う長い睫毛を見ていたら、視線を上げたその人とバチッと目が合った。

「っっ!!」

コーヒーを吹きそうになり、慌ててカップを置いておしぼりで口元を押さえる。

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