ヴァージンの不埒な欲望

たまに客観的にその場面を想像すると、無性におかしくなる。

「自分の思慮・行動・努力しだいで、自分の進む道がどのようにも変わっていきます」

研修に参加している社員を見渡して、わずかに口角を上げた拓夢さんの表情は、とても自信に満ちているように見えた。

拓夢さんは、さらに続ける。

「相手の肩書きや立場によって、態度を変える人は当然います。そして、どんなにすごい肩書きを持つ人でも、人間的に尊敬できない人もいます。最後は、裸になった自分自身です」

そう言って、柔らかく微笑んだ。

「それしかないと言えば、そうでしょうけど。……私は、厳しく豊かな自然の中で、強く穏やかな人々に囲まれて成長しました。それが私の揺るがない核となっていると思います。……どのような場所で、どのような人と対峙しても。“素の自分”は決して変えない。そうあろうと思っています」

──萌の話を聞いて、私は何となく腑に落ちた。拓夢さんが、どうして私の話を聞いてくれたのか。どうしてこんなに話しやすいのか。

拓夢さんには、“壁”がないのだ。先入観とか思い込みとか、人が無意識に抱えてしまうものが少ないような気がする。

見ず知らずの地味で野暮ったい私みたいなのが突然声をかけても、その見た目だけで判断せずに(状況も充分怪しいんだけど)、切羽詰まった真剣さをくみ取ってくれたような気がする。


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