ヴァージンの不埒な欲望
私は思わず、お店の前で固まった。『ヘアサロン』なんていう、おしゃれでキラキラした場所が私はやっぱり苦手だった。せめて萌と一緒ならば、勇気が持てるのだけれど。
「愛美ちゃん、行こうか?」
拓夢さんに優しく背中を押されたけど、私の足は重りが付けられたように固まって動かない。
「あっ。どうしても、入らなきゃいけませんか?」
「愛美ちゃんは、ここに入りたくないんだね。どうして?」
拓夢さんに、最初に言われて事を思い出した。
──俺が愛美ちゃんにするレッスンは、全部受け入れてほしい。もし反論がある時は、ちゃんと愛美ちゃんの言葉で説明して俺を納得させて──
『おしゃれでキラキラした場所は、自分には似合わないと思うので、気後れしてしまいます』
ダメだよな、こんな後ろ向きな理由。絶対に、拓夢さんが許してくれるはずがない。
上目遣いで苦笑を浮かべる私を、拓夢さんはニッコリと笑って誘導した。
「さあ、行こうか、愛美ちゃん!」
拓夢さんに背中を押されながら、私は重い足をギシギシと動かした。
白とブラウンを基調とした店内は、落ち着いた雰囲気だ。半個室のような造りとなっていて、他の来店客を目にする事なく案内された。
完全予約制で、一人のお客様に一人のスタイリストが付いて最初から最後まで仕上げるのが、そのお店のやり方だった。