ヴァージンの不埒な欲望
「お茶でも飲みながら、ゆっくり待ってるね。いってらっしゃ~い!」
お店に入ったすぐの所で、にこやかに拓夢さんは手を振った。
今日、私を担当してくれるスタイリストは上野さん。明るいブラウンの髪に、色白で小さな顔。白いブラウスにふわっとしたベージュのロングスカートは、彼女をさらに優しい雰囲気に見せていた。
私と同い年くらいなのかなあと思っていたら、三十五才の夫・子持ちだと会話の中で知って、心底びっくりした。
拓夢さんは、髪型の変更とメイクを依頼していた。
「こうしなさい」という押し付けではなく、私に似合う髪型を、上野さんと相談しながら決めるようにという事だった。
メイクは、私のよさを引き出すナチュラルメイクを伝授してほしいという事だった。
「あっ」
拓夢さんの依頼内容を上野さんに聞いて、私は一瞬口ごもってしまった。
OL時代には身だしなみの一つとして、半年に一回はヘアサロンに行っていた。伸びた髪を、切り揃えてもらうだけだが。
メイクもやはりそうで「ノーメイクではありません!」ぐらいの、必要最低限の事をしていた。
仕事を工場勤務に変えてからは、それらさえもやめてしまった。
歯ブラシの最終検査と歯間ブラシの箱詰めが工場での私の仕事なので、衛生面にはとても気を遣っている。