ヴァージンの不埒な欲望

あっ、危なかった~!

私の動揺なんか、全く興味がないという涼しい顔でカップをソーサーに戻し、その人は口を開いた。

「あなたの話を最後まで聞けるかはわかりませんが。簡潔にわかりやすく、真実だけを話してください」

抑揚なく、それでいてきっぱりと言い切られたその言葉に、冷たい汗が再びタラリと背筋を流れる。

はっきり言えば勢いで、その人に声をかけてしまったから。どんな風に話そうかなんて、全く考えていなかった。

きっと、私がどんなに頭を捻って考えても、その人を納得させられる言葉なんて出てきやしないはず。

その人の冷たく真っ直ぐな視線を受けながら、そう思った。

……それなら──

私はおしぼりをテーブルに置くと、眼鏡のブリッジをクイッと上げて、その人を正面から見つめた。

無表情に私を見ていたその人の片眉だけが、わずかに上がった。

スッと息を吸った。

「私のヴァージンをもらってください!」

その人を見つめたまま、大きすぎないが確実に届く声ではっきりと言った。

オリンピック陸上男子百メートル決勝のレースなら、間違いなくみんなゴールしている。

それぐらいの間はあった。

「はっっ!!??」

たっぷりとした間の後に、発せられたのはそれだけだった。

< 6 / 143 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop