化学反応検知中


「ほんとに?そりゃ痛いことした」

「まじまじ。ま、試合内容は普通だったけどな」


友人達、その中でも1番仲の良い健人にも、昨日の出来事は話していない。

変な妄想すんなって言われるのがオチだろうし、まず信じてもらえないだろう。


(実際のところ、本当に俺の妄想だったんだし。)


あの時彼女から謝られた俺は、何も答えられなかった。

なんだかずっと、ふわふわしてた。

俺が何処かに意識を飛ばしている内に彼女は日誌を書き終え、それを一緒に職員室まで出しに行ってそのまま別れた。



今日会った彼女はいつもと変わらない、クラスのマドンナだった。


昨日一緒に日直をやったからと言って特別話すこともないし、目が合うことも今まで通りない。

向こうがこっちに何の意識も向けてないって、そう分かるくらい今まで通りだった。


彼女はクラスの中心で笑ってて、俺は中心ではない場所で笑ってる。

何も変わらない。何の流れもない。


それだけで俺は分かった。

あれは夢だったんだって。

あれは俺の妄想で、日誌から顔を上げた彼女がゆっくり近づいてきたのも、そのまま音もなく唇が触れたことも、現実じゃないって。


全て、俺の妄想の産物だったんだろうと思う。


よく考えてみろ。

俺が彼女とキスできる訳がないんだ。
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