化学反応検知中
嘘みたいに、マドンナが俺を視界に入れることはなくなった。
まるで俺の存在がなくなったかのように。
健人と話している時に俺が近くにいても、その漆黒の瞳が俺に向けられることはない。
驚くほど、俺はマドンナに避けられていた。
本当にもう終わりなんだって、そう思う。
魔法なんて使えない俺は、時間を戻すことなんてできない。
だから終わりなんだ。
もう、終わったんだ。
「まじでしょうもねぇ男だな」
その言葉が誰に向けられているかなんて、俺は知る由もなかった。
小さく溜息をつきながら、教室を出ていくマドンナの背を見つめていたんだから。
終礼を終えた教室からはどんどん人が出ていく。
俺はまだ、椅子に座ったままだ。
諦められない。
いや、むしろ逆に諦めているのかも。
自分のことなのに、自分が1番分からない。
「なあ翔太」
「…ん?」
「お前、何してんの」
鞄を持った健人が俺の席に近寄ってくる。
その表情は、…らしくない真剣な表情だった。