化学反応検知中


俺だって、あの瞬間だけは、マドンナは俺のことを好きなんじゃないかと思ったさ。

映画を見に行った帰り道の、あの彼女の言葉。


だけどそれ以上に、そんなのありえる訳がないと思うんだ。


だって、あのマドンナだぞ?

クラスの人気者で、上級生に告白されるような女の子で、あんなにかっこいい友人がいて。

ほんとにほんとに綺麗で、笑顔が可愛くて。

そんな彼女が、俺を好きになる?


――悲しいかもしれないけど、そんなことあるはずがない。

他の人じゃなく、俺を好きになる理由なんてない。


だからあの帰り道に彼女が言ったことは俺のことじゃないんだ。

彼女は俺のことを好きだとか、そんなことを言ったわけじゃない。

ただ、気付いてもいいじゃんって、泣きそうな顔をしながら言っただけなんだ。


勘違いなんて、そんなのしないよ。

彼女は俺が好きなんだ!って嘘でも浮かれたりしない。

後で辛い思いをするのは目に見えてる。(今だって胸の痛みがない訳じゃない)



俺はいいんだ。

もう話すことがなくなってしまっても、マドンナの姿を見ることさえできれば。

あの笑顔が俺に向けられる日が来ないとしても、同じ世界に存在しているって、それだけことで満足なんだ。


十分楽しい思いはさせてもらった。

夢は見させてもらった。

あの人と同じ時間を共有できたってことだけでも、俺は感謝しないといけない。

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