化学反応検知中
これが、俺が壁を作ってるってことなのかって思った。
思えば、本当に最初からだ。
最初から、俺はマドンナを違う世界の人間かのように思っていた。
どこか違う世界に住む、女神かのように。
だからあのキスを自分の妄想だと信じ込んでいた。
でも彼女は確かに言ったんだ、あの日。
――『キスしちゃったのに何も言わないし』
俺はずっと、彼女が俺なんか相手にする訳ないって思ってきた。
彼女みたいな普通じゃない人が、普通の俺をそういう風に見てくれるはずないって。
これこそ、壁を作ってるんだ。
彼女との間に俺自身が。
ずっと逃げ続けてたんだと思う。
傷つきたくないから。辛い思いなんてしたくないから。
彼女を好きだと言っておきながら、俺は彼女への気持ちからすら逃げてたんだと思う。
――もういい。
彼女が俺のことをどう思っていようがどうでもいい。
あのキスが俺の妄想だろうが、現実だろうが。
もうどうでもいい。
俺は、俺は、
――今まで何一つ、大事なことを伝えていないじゃないか。