化学反応検知中
何故だか自然にその名前が口から飛び出す。
どこから聞こえてきたのかも分からない、その声。
彼女のものかなんて、そんなの分かる訳がない。
なのに俺の口はその名前を呼んでいて。
そんな自分に自身で驚く。
「浅井さん」
一層周りの視線が気になる。
だけどもうこの際どうでもよかった。
羞恥心なんて、そんなもの今の俺は持ち合わせてない。
「浅井さん…」
この名前を呼ぶ度に、何かが内から溢れだす気がする。
心が彼女を、呼んでいる。
「浅井さん!!!」
体中を、強い風が通り抜けた。
ぞわっと、全身の毛穴が開いたような不思議な感覚。
たくさんの人が構内を行き交っていて、その誰もが歩みを止めない。
複雑な形を作り出す人の波。
せかせかと、皆が機械のように通り過ぎていく。
そんな俺の、視線の先で、
「…浅井さん」
――僕を見つめる彼女がいた。