化学反応検知中


まるで俺は歩き始めの赤ん坊のように、よたよたと彼女を目指して歩いていた。

彼女はそんな俺を見つめたまま動かない。

ただずっと、無表情でこっちを見ていた。


何度も人にぶつかって、その度に俺はよろめく。

だけどすぐに体制を立て直して歩き出す。


誰かが俺を操ってるんじゃないかって思うくらい、俺の歩みは真っ直ぐ彼女へ向いていた。


今まで探した時間だとか、労力だとか。

そんなのにどうでもよかったし、気にしたくもなかった。

だって彼女は俺の目の前にいるし、彼女の漆黒の瞳には俺が映っているし。


頬を独特の感触が伝う。

あ、俺泣いてるって、どこか他人事のように思っていた。



「…何泣いてんの」


彼女が無表情のまま俺を見上げる。


俺はそんな彼女を見て更に涙が溢れた。


彼女が、

俺の好きな人が、

大好きな人が、


――声を俺に向けた。



たったそれだけのことなのに俺には大きすぎて、本当に大きすぎて。


彼女への想いの大きさも知る。

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