明日の蒼の空
 こんばんは。初めまして。私は、ちひろさんの娘さんのりさちゃんをお預かりしている藤崎夏美と申します。りさちゃんは、私の家で元気に暮らしています。一生懸命に家事を手伝ってくれて、いろんなお歌を歌っていますよ。とても素直で優しい娘さんですね。私と八木蒼衣という女性とで、りさちゃんをしっかりと育てていきますので、何も心配しないでくださいね。いつか、きっと逢えますから。

 夏美さんの声は……届かなかった。

 りさちゃんが元気で暮らしていることを、ちひろさんに伝えられたら、どれだけ気が楽になるだろう。

 憔悴しきった様子のちひろさんは、りさちゃんの写真を持ったまま、よろよろ歩き、寝室のベッドに横になった。

 精神的にも肉体的にも、かなり疲れが溜まっているのだと思う。目を閉じたまま、微動だにしない。

 りさちゃんのお母さんは、かなり疲れているみたいだから、そろそろ、おうちに戻りましょうか。

 そう言うには、かなりの勇気が要ったと思う。これ以上、ここに留まっていたら、精神的によくないと考えた上での判断だったと思う。

 もうちょっとだけいてもいい? りさちゃんは涙を潤ませながら、夏美さんに訴えた。

 今すぐ戻るか、このままいさせてあげるか。私は何も言わず、夏美さんに判断を委ねることにした。

 いいのよ。お母さんの傍にいてあげて。夏美さんの判断を、私は嬉しく思った。

 うん! 大きな声で返事をしたりさちゃんは、勢いよく寝室に駆け込んでいき、ベッドで仰向けになっているお母さんの体に飛び乗った。

 あたしは元気だよ。すごく元気だよ。優しい人たちに囲まれて暮らしているよ。美味しいご飯を食べてるよ。ハンバーグを作ったんだよ。お空に絵を描いたんだよ。新しい友達がいっぱい出来たんだよ。

 りさちゃんの声も届かなかった。

 寂しげな目で、お母さんの顔をじっと見つめているりさちゃんも夏美さんも私も、伝えたいのに伝えられないもどかしさと闘っていかなければならない。愛する人や大切な人が亡くなるまで。
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