明日の蒼の空
「今日は、僕に付き合ってくれて、どうもありがとう」

「ううん。私こそ、本当にありがとう。だいすけくんのおかげで、久しぶりに充実した一日になったわ」

 ちひろさんとだいすけさんは、お互いに頭を下げ合った。

 おでことおでこがぶつかってしまい、二人とも恥ずかしそうに笑っている。

「あの……。大切な話があるんだけど、聞いてくれるかな」

「う、うん」

 だいすけさんがベンチから立ち上がり、ちひろさんの前に立った。

「あの……僕は……その……」
 言葉を詰まらせながら言った、だいすけさんの顔は真剣そのもの。

「高一の時から、ずっとちひろさんのことが好きでした。もしよかったら、僕と付き合ってください。よろしくお願いします」

 突然の告白に、私は驚いてしまった。自分が告白されたわけじゃないのに、なんだか恥ずかしくなってしまった。

 驚いている場合でも恥ずかしがっている場合でもない。ちひろさんの表情を確認するため、私は大急ぎでベンチの前に回り込んだ。

 目がぱっちりと開いていて、口を開けたまま、微動だにしていない。私が驚いたくらいだから、ちひろさんは驚いたどころじゃないと思う。

「返事は今じゃなくてもいいんだ。急に変なことを言って、ごめんね」
 だいすけさんはちひろさんに向かって頭を下げて、もじもじと恥ずかしそうにしながらベンチに座り直した。

 二人は何も話さず、しばらく沈黙が続いた。

 私は恋愛経験がないので、告白した側の気持ちも告白された側の気持ちもわからない。

 まだ早かったのだろうか。タイミングが悪かったのだろうか。ちひろさんは、だいすけさんのことを好きではないのだろうか。

「もう少し、遊んでから帰ろうか」
 だいすけさんがベンチから立ち上がった。

「そうね」
 ちひろさんもベンチから立ち上がった。

 二人はゆっくり歩いて、再び観覧車に乗り込んだ。

 いつの間にか、空がオレンジ色に染まっていた。

 真っ赤な夕日が沈みかけている。

 二人が乗った観覧車の窓が、キラキラと輝いている。
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