明日の蒼の空
 ふれー、ふれー、お母さん! がんばれ、がんばれ、お母さん! りさが大きな声で声援を送った。

 ちひろさん! がんばれ! 夏美さんと私も大きな声で声援を送った。

 ちひろさんはにこっと微笑み、りさの写真が入った写真立てをテーブルの上に置いて、受話器の子機を握り締めた。

「もしもし、ちひろです」
 声のトーンは落ち着いている。

「どうもお疲れ様でした。今日は本当にありがとう」
 電話の相手は、どうやらだいすけさんのよう。

「返事が遅れて、ごめんさない」
 受話器の子機を持ったまま、頭を下げて、深く息を吸い込んだ。

「こんな私でよければ、よろしくお願いします」

 ちひろさんの決断を私は嬉しく思った。

 りさも喜んでいて、夏美さんは涙ぐんでいる。

 だいすけさんの声は聞こえなかったけど、ものすごく喜んでいると思う。

「それじゃあ、また明日ね。おやすみなさい」
 ちひろさんは電話を切って、受話器の子機をテーブルの上に置いた。

 にっこりと微笑んで、りさの写真が入った写真立てを抱き抱えた。

「お母さん、頑張るから。りさに逢える日まで、頑張るから。またいつか一緒に遊園地に行こうね」

 微笑みながら涙を流しているちひろさんは、辛い過去を乗り越えるために、新たな道に進んでいこうとしている。人生をやり直そうとしている。

 ちひろさんはまだ二十三歳。いくらだって、やり直しは出来ると思う。

 だいすけさんと結婚して、幸せな家庭を築き上げたとしても、ちひろさんは、りさのことを忘れないと思う。

 りさと過ごした日々の思い出を、大切にしながら生きていくと思う。
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